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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)87号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件審決を取り消すべき事由の有無

1 前記本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(特許願書及び出願当初の明細書)、第三号証(昭和五七年一二月二〇日付手続補正書)及び第四号証(昭和五九年一二月二六日付手続補正書)を総合すると、<1>本願発明は、特許請求の範囲において規定されているとおり、親水性蛋白質の水溶液を含有するマイクロカプセルを製造する方法に関する発明であるが、アミノ成分が疎水性相へ実質的に拡散することなく、親水性及び疎水性相の界面に実際に面界重合反応を起こすことが可能であるという予期しない知見に基づいて、まず、連続相としての実質的に非極性溶剤中に分散相としての蛋白質水溶液の乳液を生ぜしめ(予備乳化工程)、次いでこの乳液に多塩基酸、その酸ハロゲン化物またはその酸無水物などの化合物を添加して界面重縮合を生ぜしめることによつて実質的に完全に交差結合した蛋白質からなる壁体を有する親水性蛋白質の水溶液を含有するマイクロカプセルを製造することを特徴とする発明であること、<2>本願発明は、予備乳化工程を必須の構成として採用して、まず乳液を生成することによつて、分散の程度を管理しながら、所望の調整ができ、マイクロカプセルの大きさを使用される最終目的に応じて、広い範囲で変えることができるとともに、均一の大きさに形成できること(本願明細書第一六頁第一六行ないし第一七頁第一行)、脱水と再水和とに耐えるに十分な厚さの壁を有するので、運搬貯蔵に便利であり、かつ乾燥に耐えるだけの表面膜の頑丈さを備えたマイクロカプセルを製造できること、(同第二〇頁第三行ないし第五行、甲第四号証第三頁(8)、本願明細書第二四頁第一〇行ないし第一二行)、したがつて、本願発明の方法は、特に魚や甲殻類などの水中生物用の飼料の製造に応用できること(同第一六頁第一行ないし第七行)並びに製造工程におけるカプセル化のための反応時間が、極めて短い(実施例では一五分以下)ことなどの効果ないし利点を有することが認められ、本願発明の方法による右の利点ないしはこれによつて製造されたマイクロカプセルが右のような性状特性を有することは、成立に争いのない甲第六号証の一、二(デビツド・エー・ジヨンズの一九八八年九月一日の供述書及び添付の写真)の写真14葉に関する部分及び第七、第八号証(同人の一九八八年五月二七日の供述書)によつても裏付けられている。

2 特公昭四五―二〇八八五号特許公報(引用例)が本出願前に頒布された刊行物であることは原告の明らかに争わないところであり、また、引用例に本件審決認定のとおりの記載があること、本願発明が予備乳化工程を採用し、右工程後に多塩基酸のハロゲン化物の添加を行なう点において引用例記載の発明と構成上相違するものであることは当事者間に争いがない。しかして、本願発明において、右構成を採用したことにより前記1<2>に認定したような利点ないし効果を実現し得たのであるから、右構成を具備しない引用例記載の発明がそのような利点ないし効果を生ずるものと認めることはできず、当然のことながら、成立に争いのない甲第五号証(引用例)には、右のような利点ないし効果を生ずる旨の記載は全くない。

3 そうであれば、他に合理的な根拠がないかぎり、引用例の方法に代えて、予備乳化工程を採択して、本願発明の方法が達成した前記認定のごとき利点ないし効果を実現することが当業者にとつて容易に想到し得ることと解すことはできない。

しかして、本件審決は、本願発明の前記相違点の構成の進歩性を否定するに当たり、これを裏付けるべき先行の公知技術を全く示さず、溶媒と分散相との界面重縮合反応促進という点のみにとらわれ、右構成は「当業者であれば容易に思い付くものと認められ(る)」と判断し、予備乳化工程の採用により、乳液の分散管理が可能となり、これによりもたらされる前記1<2>認定のような利点ないし効果を引用例記載の発明との対比において具体的検討することなく、右構成により「格別の効果を得ているものとも認められない」と判断したのであるが、右判断は誤りというほかない。

4 この点、被告は、本願発明の効果はマイクロカプセルの技術において何ら格別のものではない旨主張するが、すでに認定したところの本願発明の方法で製造されたマイクロカプセルの形状特性や反応態様から明らかなように本願発明は、界面重縮合反応を蛋白質水溶液からなる微小滴の表面部分に限定して生起させることによつて、これに限定された厚さで、かつ強固な壁体からなるカプセル膜を形成するものであり、被告の主張するように単なる厚膜化による膜強度の増加を目的としたものではない。したがつて、本願発明が厚膜化によるカプセル膜の増強を目的としたものであることを前提とした被告の右の主張は、本願発明の方法の特徴を正確に理解したうえでのものとは認められないので、採用の限りでない。また、被告は、原告の提出に係る実験結果について、るる主張して右の相違点に起因する効果も格別のものとはいえない旨主張するが、少なくとも、前掲甲第七号証及び成立に争いのない甲第八号証(デビツド・エー・ジヨンズの一九八九年三月二二日の供述書)を総合すると、甲第七号証の実験1と実験2において採用された攪拌条件の差(引用例の方法では、所望の大きさのマイクロカプセルを得るにはかなりの長時間必要な強さでの攪拌が不可欠である。)及び攪拌条件に差が生じることによる反応態様の相違や形状特性上の相違は、正しく前叙のとおりの予備乳化工程を採用したか否かの差であると理解できるものであるから、この点のみからみても、少なくとも前掲各証拠は、本願発明で使用される材料を用いて、引用例に記載された予備乳化工程なしの方法をそのまま適用しても、本願発明の方法と同等の特性をもつたマイクロカプセルを得ることはできないことを根拠づけるものということができる。したがつて、予備乳化工程の有無という本願発明と引用例記載の発明との相違点に起因する効果上の違いは評価し得るところであり、これを否定する被告の主張には合理性がない。

5 以上によれば、本願発明が、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした本件審決の判断は誤りであり、取消しを免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

多数の遊離アミノ基を有する親水性蛋白質の水溶液を含有するマイクロカプセルを製造するに当たり、蛋白質に対して非溶剤であつて、かつ実質的に非極性であるか又はシクロヘキサンとクロロホルムとの4:1W/W混液の極性より低い極性を有する連続相としての液体中に、分散相としての前記水溶液の乳液を生ぜしめ、次いで、得られた乳液に、二もしくは多塩基酸、その酸ハロゲン化物、又はその酸無水物を添加し、その結果、前記蛋白質及び前記化合物との間に界面重縮合を生ぜしめて、実質的に完全に交差結合した蛋白質から成る壁体を有するマイクロカプセルを形成することからなるマイクロカプセル化プロセス。

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